アルボン昇格、ガスリー降格。レッドブルは単純にランキング2位を目指しているだけではなさそうだ。

更新日:2019年8月13日


レッドブルからトロロッソへ降格を命じられてしまったガスリー(©F1'nder)

8月12日、既に来季のストーブリーグで話題が盛り上がるところで、大きなドライバー人事に関するニュースが飛び込んできました。


それは今季からレッドブル・ホンダに昇格したピエール・ガスリーに代わって、次戦ベルギーGPからトロロッソの新人アレクサンダー・アルボンをレッドブルへ招くというニュースです。


シーズン中盤に差し掛かってレッドブル・ホンダはエースであるマックス・フェルスタッペンが怒涛の快進撃を見せるなか、ガスリーは開幕から低調が続いていました。


その低調ぶりに耐えかねたのか、レッドブル首脳はこのシーズンの夏休みを迎えたところでこのような決断を下します。


こうしたシーズン中での人事交代はF1においては珍しいものなのですが、レッドブルは2016年にもシーズン序盤にダニール・クビアトとフェルスタッペンを入れ替えた過去があり、ドライバー交代を積極的に行う傾向があります。


では、今回何故レッドブル首脳がこのような決断を下したのか、今回はガスリー降格の観点から考察していきたいと思います。


中国GPで感じたガスリーとフェルスタッペンの差
上海のターン3は定点観測にもってこいの場所。今年はレッドブル2台の違いが見られたコーナーでした。(©F1'nder)

いきなりですが、まず最初に今季の中国GPのフリー走行を現地で観戦したのですが、その時に私が感じた彼らの違いを述べたいと思います。


中国GPの舞台である上海インターナショナル・サーキットはセクター1の渦巻型のコーナーが名物ですが、ここで両者に決定的な違いが見られました。


それは、低速コーナーでマシン挙動が乱れた時の対応です。


上海のセクター1でも特にターン3は各ドライバーのライン取りの違いが見えやすく、個人的にはフリー走行で定点観察するには最高のポイントだと思っています。


ここでレッドブルの2台は明らかに違う動きをしていました。フェルスタッペンは全ドライバーの中で、挙動が乱れたとしてもライン取りの乱れを最小限に留めていたのが印象的でした。


これは恐らくこういうコーナーではマシンがどのように乱れやすいのか、事前に予測できているから為せる技のように思います。


縁石をしっかりと跨ぐと時折、フロアとの干渉によってマシンの向きが不規則に変化してしまうのですが、縁石の形状などをしっかり把握しているからこそ縁石をガッツリ跨いだラインでタイムを出せる技術を持っているようです。


このスタイルは今季優勝を飾ったレッドブルリンクのターン2でも見られ、ここで他のドライバーたちとまるで違うライン取りでオーバーテイクも成功させ、優勝にこぎつけていました。


対してガスリーはまだ新チーム3戦目ということもありましたが、この低速コーナーで手を焼いており、一瞬挙動が乱れると大きくマシンが流されてしまっていました。


低速コーナーは一瞬で走り抜ける高速コーナーと違って滞在時間が長く、ラップタイムを大きく左右する区間です。


ここで大きな後れを取ってしまうとタイム差で上回ることは非常に難しくなり、この区間はガスリーの課題だと個人的に注目してきましたが、降格を言い渡される直前のハンガリーGPでも、こうしたコーナーで手を焼いているシーンが見られました。


これは、今季のレッドブル・ホンダRB15とガスリーのマッチングが上手くいっておらず、再加入となったトロロッソでは、こうした挙動はむしろ解消される可能性もあるでしょう。


しかし、現実的に勝てる可能性の高いマシンは間違いなくレッドブルのマシンなので、これに適応出来なかったことは、ガスリーのキャリアにおいて大きな痛手となってしまったでしょう。


もちろん、それ以外の外部からでは分からない他の要因もあると思いますが、これらはスタンドからでも分かるほど大きな違いが両者の間で観られました。


上位6台の争いに加われなかったガスリー
©F1'nder

では、まず最初に今回降格を言い渡されてしまったガスリーの成績を見ていきたいと思います。

まず、こうして成績を比較すると、フェルスタッペンが非常に高いレベルで安定していることは普段F1を観ている方には明らかだと思います。


彼は現在F1界でベストドライバーの呼び声も日に日に高まっている、非凡なドライバーであることを証明しており、その彼と互角に渡り合うことは簡単ではないことは、開幕前から言われていたことでした。


しかし、今回ガスリーが降格に至った原因はフェルスタッペンと大きな関係は無いと、私は考えています。


ここの表で注目したいのが成績表の青字、つまり7位以下の回数です。


今季はメルセデス、フェラーリ、レッドブルという上位陣のマシン性能が飛びぬけたシーズンであり、この3チームが6位以内の順位争いがレースの焦点でもありました。


そこでフェルスタッペンはメルセデスやフェラーリと互角以上に渡り合う活躍を見せていますが、一方のガスリーは6位以内でのフィニッシュが上位陣のなかで極端に低い結果に。


これは優勝を目指せるマシンながら、中団勢の争いに飲み込まれてしまったことを表します。


ガスリーはここまで13度の7位以下を記録していますが、フェルスタッペンはカナダGP予選の一度きり。(最大で24回)


ちなみに今季の、他の上位陣ドライバーの7位以下の総合計は、、、


ルイス・ハミルトン(メルセデス)  1回

バルテリ・ボッタス(メルセデス)  2回

セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)4回

シャルル・ルクレール(フェラーリ) 5回


と、ガスリーの13回という結果は、まさに苦戦の一言でトップ3チームの選手たちと互角に渡り合えているとは言えないレベルでした。


それに対し、厳しい意見も浴びせられるなか、直近3レースで改善は見られるようになったのですが、首脳陣はもはや彼に期待を寄せることが出来なくなってしまったようです。


シーズンが進むにつれてレッドブル・ホンダは調子を上げ、フェルスタッペンが2勝に加え1PPを記録するなか、ガスリーは得点力を上げられず、これが降格の決定打になってしまったと思われます。


レッドブルは他のチームと比べて若いドライバーを積極的に起用する傾向が強いチームで、これは要するにドライバーの伸びしろを探していると言えます。


言い換えると、前半戦の低調もチームの上り調子が見られた直近4レースで、伸びしろを見せることが出来れば今回の降格は無かったようにも思えます。


もちろん、フェルスタッペンファースト体制のなかで、マシンが完全に同じスペックでなかったケースも多々あったと想像できますし、レース戦略面でも彼が不利な位置に居たことは確かでしょう。


また、現状レッドブルホンダは2勝を記録しながら、未勝利であるフェラーリに対しコンストラクターズランキングで後れを取っている背景も、今回のドライバー交代に拍車をかけた部分はあるでしょう。


F1はコンストラクターズランキングに応じてチームに分配金が支払われすが、2位の場合と3位の場合では実に700万ポンド(約8億9000万円)もの差額が生じるので、これだけを理由に交代に踏み切ることも不思議ではありません。


特にガスリーやアルボンといった若手ドライバーの年棒は安いうえ、自らの育成カテゴリー出身というのも、契約を自由に操れることも活発のドライバー交代が出来る理由です。


今回のチーム公式のリリースにも『レッドブルは契約しているドライバーを好きに動かすことが出来る』といった過激な言葉が含まれていましたが、これはまさしく事実でしょう。


ですがレッドブル首脳はそうした短期的な考えのもとで、ガスリーの降格を決めた訳でも無いように思えるのです。


2016年のクビアト⇔フェルスタッペンのケースはどうだったのか?
今、観ると結構懐かしい2016年のフェルスタッペン(©F1'nder)

では、ここで前回レッドブル内で起こったドライバー交代劇も振り返ってみたいと思います。


その際に降格を言い渡されたのはダニール・クビアト(現:トロロッソ)でした。


彼は今季から再びトロロッソのステアリングを任され、見事F1カムバックを果たすとドイツGPでは雨よって大荒れのレースで殊勲の3位表彰台をもぎ取り、まさにF1ドライバーの意地を見せつけてくれました。


そんな、彼が降格を言い渡されたのは2016年の第4戦ロシアGP直後のこと。


では、その時のクビアトの成績を見てみたいと思います。

このように色分けしてみると、この時にクビアトもムラのある結果を残していることが分かりますね。


チーム間の勢力図は今季とは異なりますが、レッドブルの立ち位置としてはおおよそ2~3番手を争うチームであったので、先ほどと同じルールで色分けしてみることにしました。


但し、個人的にはこの時の方が、今回よりも大きな衝撃を感じたのは確かです。


成績にムラがあるとは言え、中国GPでシーズン初表彰台を獲得したばかりのドライバーを降格させるというのには驚きました。


また、クビアトは前年にダニエル・リカルドをランキングで上回っていたのですが、これを観るとレッドブルのシートに安泰という言葉はないことが分かります。


この時はトロロッソにフェルスタッペンとカルロス・サインツ(現:マクラーレン)という2名の活きの若手が走っており、レッドブルグループは強力なドライバーたちを有していました。


その中でも時に印象的な走りを見せていたフェルスタッペンを昇格させると、移籍初戦となったスペインGPで史上最年少優勝を記録してしまうのですから恐れ入ります。


ちなみにこの時はフェルスタッペンに対し他チームからのオファーがあったようで、彼を引き留めるための防止策としてレッドブルへの昇格を受け入れたことが、交代劇のきっかけだったと言われています。


となると、どちらかのドライバーに降格させるしか方法はなく、2014年に3勝を記録し勝てるドライバーであることを証明したリカルドを残し、消去法としてクビアトが降格となりました。


ですが、この人事は結果的に功を奏し、フェルスタッペンとリカルドは3シーズンの間でそれぞれが毎年勝利を記録する強力なコンビネーションとなりましたが、今回は果たしてどうなるでしょうか?


レッドブルというチームはいつも伸びしろのある若手ドライバーを求めており、こうしたドライバー異動はF1に限ったことではなく、むしろ下部の育成ドライバーたちの方がより活発な動きにキャリアを左右されているケースも決して少なくありません。


ですが、このような活発な動きがいつもレッドブルにとって良い事ばかりでもなかったのです。


というのも、F1ドライバー育成プログラムで他を凌駕していたレッドブル・ジュニアでしたが、現在は次世代の候補が枯渇気味なのです。


これは伸びしろが感じられなければ容赦なく切るというスタンスの悪い面が目立ち、レッドブル育成プログラムを避ける選手たちが増えてきたからです。


また、今季からレッドブル昇格を果たしたガスリーも、前任のリカルドが離脱したからこそ昇格を果たせたという見方が強く、他にレッドブルF1に乗れる目途が立つ若手がガスリーだけだったのも事実だと思います。


これは、ガスリーが不振となった現在、トロロッソでF1マシンへの適応を見せ始めているアルボンを昇格させる自然な流れだったのかもしれません。

1年目ながら着実な結果を残しているアルボン。デビュー半年でレッドブル昇格というスピード出世が決まった。(©F1'nder)

もし単純に今季のコンストラクターズランキング2位を狙うだけなら、間違いなく経験値が多く、レッドブルチームにも所属していたクビアトを昇格させたことでしょう。


ここで、アルボンを選んだということは、レッドブルチームは今後も若手ドライバーたちの伸びしろを重視するブレないスタンスは変わっていないのです。


そして、アルボンもデビューから1年が経たないうちに、F1キャリアを左右する佳境を迎えることとなり、ガスリー同様に厳しいプレッシャーと非凡なチームメイトという環境で戦うことになります。


トップチームで戦うということは、F1まで上り詰めた選手を以てしても簡単でないことを今回の交代劇で感じると共に、そんなチャンスに巡り合えただけでも幸運だという言い方も出来ると思います。


今回、降格となりガスリー本人は悔しい思いでいっぱいだと思いますし、同じく降格を言い渡されたクビアトも、一時は別人のように元気のない時期もありましたね。


ですが、クビアトは意地のカムバックを見せ、今回の交代劇に再び名乗りを挙げるほどの活躍を見せる選手もおり、何より凄まじい早さで何が起こるのかが分からないことも含めてF1なのだと思います。


ガスリーと言えば、スーパーフォーミュラなど日本との関わりも多かったドライバーなので、ファンの方も沢山いらっしゃると思いますし、彼がどのように再起を図るのか今後もその走りに注目、期待していきたいですね!


次回はアルボン編を書こうと思います。

少し長くなりましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。