F1と手記『2017年マレーシアGP-中編-』

更新日:2019年1月8日


9月29日(金)、ついに最後のマレーシアGPが開幕、フリー走行1回目が始まった。

しかし、現地は名物とも言うべき激しいスコールによって、P1が始まっても一向にマシンが出てこない。というよりは、走れるような状況ではない。


だが、少しこの天気を楽しんでいる自分もいた。

2009年の豪雨中断はこんな感じだったんだろうか、そういえば2010年日本GPの予選もこんな感じの雨だったなとか、1人で思い出しながらマシンが出てくるのを待っていた。


このセッションで最終コーナーのスタンドに居た僕は、隣に立っている人を見て少し驚く。


F1パスを胸に下げた白人男性はカメラを構えながらドライバーたちを待っている。きっと取材で来たのだろうかと考えながら僕は思わずその人をチラ見していた。


何度目かの時に目が合うと、互いにこの状況に苦笑い。わざわざ遠くからF1を観に来た(きっとその人は仕事)のにマシンはまだ走らない。


幸いこのスタンドには屋根があったのだが雨漏りが酷く、今度はそれを見てまた僕たちは苦笑い。


すると、あまりの退屈からかそのカメラマンが『早く出てこい!』と言う。


きっと趣味を仕事に変えたのだろうかと僕は想像しながら、先のことが観たくて待ちきれない仕事をしている彼を羨ましいと思った。


それから5分程して雨は小雨になり、ようやくマシンがコースに現れ始めた。

僕にとってのP1での最大の楽しみは若手ドライバーたちの走りを観ること。

特にデビューを控えているドライバーたちの走りは、宝探しをしているような感覚もするし、F1のレギュラーシートを掴むための気迫が感じられることもある。

この日は、この翌年にF1デビューを果たして活躍するシャルル・ルクレール、ハースには2019年ザウバーのシートに収まったアントニオ・ジョビナッツィ。


さらには2018年のウィリアムズをドライブしたセルゲイ・シロトキンはルノーから、さらにはショーン・ゲラエルもトロロッソのステアリングを握る。

そして、トロロッソのもう1台はこの週末にF1デビューを飾るピエール・ガスリーがレースに向けてのセットアップとマシン順応に努めていた。

事実、この日走行した4名のヤングドライバーのうち3人が2019年のグリッドに並ぶ。F1ドライバーのキャリアをデビュー前から楽しめる機会があることは率直に嬉しい気持ちになる。

特にヨーロッパと違いアジア圏で暮らす自分たちにとって、こうしたチャンスは滅多にあるものではない。

路面は徐々に乾いていくコンディションは若手にとって難しいコンディションだったが、このセッションで3番手に飛び込んだのがマクラーレンのフェルナンド・アロンソだった。

©F1'nder

もちろん、このセッションでのタイムには大きな意味はないが、変わりゆくコンディションで好タイムを刻むにはドライバーの引き出し、つまりテクニックと経験が活きる。


乗りこなすのが難しいコンディションと非力と言われるマシンながらも、アロンソのライン取りは乱れることはなく、まるでレースのように安定した速さをマシンから引き出している。


勝敗にはマシン性能が依存しすぎると言われて久しいF1だが、このタイムシートを見るだけでも、マシンだけでなんとか出来る訳でもない気がした。


いくら速いマシンでも1人でに走り出すことはないのだから。 当たり前なことではあるが、こうした状況でも勝利を目指すためにトップドライバーは何十億もの報酬を手にする。

そして、このP1は新人とベテランの違いが感じられる貴重な1時間30分なのであり、今後の若手ドライバーたちの成長を楽しむためのセッションでもある。


そして、ここで2018年から導入されたHALO(頭部保護システム)のテストも行われていた。


画面を通して注視するとその存在は邪魔だと感じたが、実際に目の前を高速で駆け抜ける姿を観ると思っていたほど気にはならない。


だが、最もHALOを恨んだのは一眼レフでヘルメットのアップを撮影するとき。角度によってバイザーが取り辛いことはF1マシンを取る楽しみが減ってしまったことだろう。


この時はまさにHALOの原型と言える形状(2018年型と大きな違いはないが)で、ここからどんな進化を見せるかは楽しみに捉えたいところだ。


話は飛んで土曜日の予選へ。


前戦シンガポールGPでまさかのアクシデント、タイトル争いで大きな痛手を負ったセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)はここでもパワーユニット交換を強いられQ1で走行せず。早々と最後尾グリッドが決定してしまう。


新人ガスリーは僚友カルロス・サインツに次ぐ16番手と悪くない位置を獲得したが、今回際立ったパフォーマンスを見せたのはマクラーレンのストッフェル・バンドーンだった。

©F1'nder

予選最後のQ3で会心のアタックを決めて7番手に付けた彼はあと0.1秒でトップチームに次ぐ位置まで浮上、この年で最後になったマクラーレン・ホンダの成長を感じさせる結果でもあった。


そして、2018年限りで残念ながら一旦、F1でのシートを失ってしまった彼にとっては、この1戦はベストレースに数えられる力強い走りだった。


そして、ベッテルが沈んだことでポールポジション争いの本命はルイス・ハミルトン(メルセデス)とだったが、今回はフェラーリ、レッドブルも好調。


Q3では最初のアタックでその本命が会心のラップを決めたものの、思わぬライバルが現れた。

©F1'nder

Q3最後のアタックでキミ・ライコネン(フェラーリ)がセクター2までを最速で駆け抜け、場内が一気にざわつき始める。


ここセパンはメルセデスのメインスポンサーであるペトロナスのホームレース。

ペトロナスグリーンのシャツを着るハミルトン応援団からは悲鳴のようなどよめきも聞こえたが、スタンドからはそれをかき消さんばかりの大歓声。


ライコネンがホームストレートへ帰って来るとスタンドが手を叩いて声を出してフェラーリを後押しする。コントロールラインを通過、軍配はわずか0.045秒差でハミルトンに。


あちこちで揺れるペトロナスの旗、肩を落としながらも健闘を称えるフェラーリファン。


海外のファンたちはとても陽気で、感じたままをスタンドで表現する印象がある。そういった彼らの歓声が瞬間的な戦いをより魅力的に映してくれた。


そう感じると取材であると肝に銘じて向かったマレーシアGPだったが、あまりの興奮に気付いた時には手を叩いて、声を出してドライバーたちの戦いに賛辞を送っていた。